小学生の時の話です。
母親同士が今で言うママ友だった繋がりで、数人の女の子で仲良しグループを作っていました。
私の母親は気の弱い人で、何かあったとき文句を言うどころか不当な扱いに抗議することもできない、そんなタイプでした。
ですから、そういう母親同士の関係はやはり子供同士にも影響を及ぼします。
ボスタイプのA母の子供であるA子は、地元企業の社長令嬢という立場もあって悪い意味で強い存在感を持っていました。
ちょっと嫌だな、と思いつつも母親同士の関係もありましたから、言い出せないまま学年が上がってきました。
ある時、母親同士で成績のことが話題になったのか、近所の学習塾に入れられました。
その塾はかなり厳しくて、塾長兼講師が一人で全科目教えるワンマンな学習塾。
毎時間テストを行い、上位3位は図書券のご褒美が貰えますが、理解が遅かったり成績が伸びないと先生から罵られてしまう、そんな塾でした。
ですから、ついていけなくてやめる子も多い反面、図書券のご褒美に釣られたり、競い合いに向いている子供はグングン成績を伸ばす所でしたので、噂を聞きつけ広い学区から人が集まっていました。
私たちのグループは平均値が上の中だったけれど、ある日私は算数の一部でなかなか理解できないポイントがあり、皆の前で罵られてしまいました。
その日の帰り道は泣くのを我慢している私に、友達は腫れ物に触るような感じでしたが、そんな中、A子だけは「えー私でもわかったのにぃ」と空気を読まない態度で悔しい思いをしました。
それからは、予習復習を徹底的に行い、苦手だった科目も克服。他の友達の発案で、みんなで予習してから塾へ行くようにしました。
成績上位者をグループが占めることも出てきました。しかしA子だけはあまり予習に熱心ではなく、成績は伸び悩み始めます。
ある日のテスト中、私の斜め後ろからA子の視線を感じました。カンニングです。塾の先生に見つかれば、ただではすみません。
まさかと思いながら答え合わせのときに確信しました。
A子から見える位置の問題は私と同じ計算式と回答で、見えない場所は関連問題やもっと簡単な設問なのに不自然に空欄でした。
文句のひとつも言いたかったんですが、発言力の強いA子相手に、母親譲りの話し下手の私が食って掛かったところでとぼけられたらおしまいです。
次の日もA子は私の答案をカンニングしてきました。
とても嫌だったけれど、何も言えない私は計画を練り始めました。
その次の週、A子の苦手な算数の文章問題が出ました。
「時速○kmで走っている電車が×分走ると…」
「AとBの電車がすれ違うと…」
そんな内容の問題です。
私はさりげなく、斜め後ろのA子に答案が見えるようにしてやりました。
A子が先生の目を盗んでガン見している気配がビンビンに伝わってきます。
もちろん私が書いた計算式はでたらめ。
割り出した速度は「マイナス○○km」というどう計算してもでてこないありえない数字です。
しかし、元からまともに解く気のないA子ですから、私の解答を考えもせずに丸写しする筈です。
残り時間があと2分となったときに、見直しをするふりをしながら大急ぎで答案を全部正しいものに書き直しました。
そして答え合わせの時間。
天が味方したのか、先生が今日に限ってA子に答えさせました。
A子「答えはマイナス○○kmです」
ざわつく教室。そりゃそうです。ありえない数字ですから。
この教室でそんな答えを出したのはA子ひとり。先生の顔が途端に険しくなります。
「あぁ?どうしてそうなったのか言ってみろ!」
「え……」
答えられないA子。
私のでたらめ計算式を蚊の鳴くような声で言いますが、よく聞こえないと身を乗り出す教室の子供達。
「なんだそれは、脳みそのどこ使ってんだ!馬鹿かお前は!なんでそんな数字つかうんだ!」
先生が激しく罵ります。
最後に先生が上位者を読み上げます。
「上位は誰だ?満点は……、お前一人か。よくやった」
私は見事に図書券を貰いました。
その時のA子の驚いた表情…。めちゃくちゃ気持ち良かったです。
私はA子に何も言わなかったし、A子も何も言いませんでした。
ただ、A子が私を揶揄する事はなくなり、しかも、まじめに予習をするようになりました。
私はそれで満足しました。
復讐というには小さいですが、母親同士の人間関係に影響されてた私には結構勇気の居る行動でした。