俺が小学校の頃だから、30年ぐらい前の話。
学校帰りに「誕生日」の話をしてはいけないことになっていました。例えば「今日、俺の誕生日なんだ」とかは絶対禁句。というのもこんな話があったからです。
集団下校の帰りに、ある兄弟が友達に「誕生日なんだ」と話していました。道草をして家に帰ると、台所からはカレーの良い匂いがします。
「やった、今日はカレーなの?!」
兄弟は喜んで台所へ行きました。するとそこには見たことのない男の人がエプロン姿で立っていました。
「あぁ、そうだよ、お前の誕生日だからね」
男の人は聞いたことのない声でそう言います。その足元には、刺された母親の死体が転がっています。
あまりのことに兄弟が凍り付いていると、エプロン姿の男は二人を椅子に座らせます。そして、向かい側の椅子に座るとハッピバースデイを歌い始めます。
「幸せかい、幸せだろう」
男はニタニタと笑いながら、兄弟にカレーを食わせます。二人が震える手でカレーを食べ終わると、男は立ち上がってエプロンを脱ぎ、玄関から出て行ったそうです。
この話は「幸せオジサン」とか「カレーおじさん」とか「エプロンおじさん」という名前で、うちの田舎でよく語られていました。