残業で遅くなった彼女を会社まで迎えに行った時のことです。
会社前のコインパーキングに車を駐めて彼女を待っていると、白髪のおばあちゃんが近寄ってきました。なんだ?と思っていると車の窓をコンコンされたので、俺は窓を開けて「なんですか?」と聞きました。
老婆「あんた誰?」
俺は「…この会社の社員の知人で」と言いかけました。その時です。
「嘘つくんじゃないよっ!私はあんたなんか知らないっ!!キチガイだろキチガイ!このキチガイ!ドロボー!!」
と、突然老婆が絶叫し始めたのです。唖然とする俺。ぎゃーぎゃー泣きながらわめく老婆。これはヤバイ人だと直感して、俺はすぐに遠くの駐車場まで車を移動しました。
そこでホッとしたのも束の間。今度は窓をガコンガコンと激しく叩く音がします。外を見るとまたあの老婆の姿。彼女は半狂乱な様子で、しまいにはボンネットによじのぼりフロントガラスをブロックで殴りつけはじめました。
「キチガイキチガイキチガイ!いなくなれ死ねぇぇ!!!」
俺はひたすら悲鳴を上げ続けました。彼女のほか数人が会社から走り出てきて老婆をどかしてくれるまでずっと。
あとから聞いた話では、その老婆は彼女の会社の社長の元・奥さんだったそうです。金遣いが荒い上に浮気して数年前に離婚したといいます。なぜか本人は自分が慰謝料もらえると思ってたそうですが、当然そんなもんもらえるはずもなく、無一文で追い出され、浮気相手にも捨てられて完全におかしくなってしまったとか。
社長夫人だった当時から思い込みが激しく、
「私が会社の実権を握ってるのよ」
とわがもの顔で練り歩き、社員のプライベートにまで干渉して全部把握してないと気がすまないという困った女だったそうです。
あの時も、俺を見て、
「知らない男!社員の彼氏?…うちの社にワタクシの把握してないことがある!!」
とご立腹になってしまったんだそうで。 それにしても、一番びっくりしたのは、あの老婆がじつはまだ40才未満だったということ。 どう見ても70~80才くらいだったんだけど…。