間抜けな勘違いからの泥棒話から、大乱闘寸前になったお話。
うちは夫婦+娘、義兄夫婦(子無し)と一緒に、都内で二世帯住宅で暮らしてる。
旦那の仕事が資格業で今は丁稚奉公状態。
実務経験を重ねたら独立開業予定だったのだが、妊娠しにくい体質と診断されていた私がまさかの妊娠をしたので、義兄夫婦宅にお世話になってる感じ。
義兄さんはタイ・インド・ネパールなど行き来する雑貨輸入商のため、年間4ヶ月は海外出張。うちの旦那も出張がちで、1ヶ月のうち1週間は泊まりの国内出張。
義兄の嫁さんは病弱なので、私たち夫婦が同じ屋根の下にいるだけで安心すると言ってくれたので、自宅でアクセサリー作家をやっている義兄嫁さんの手伝いなどをしながら、仲良くやらせてもらっている。
うちの娘の通う幼稚園は、毎年11月にバザーを開催。年少の時、義兄嫁さんに手伝ってもらって、ビーズのストラップを30個ほど出したら大好評。
アクセ作りを教えて~、というママが5人くらい集まり、月2回のお教室を開くことになった。
教室と言っても材料費と各自お茶とお茶菓子は持ち込み。うちはリビング提供のみ。材料費も、兄嫁さんのコネで問屋さんから買うので、普通にお店で買う10分の1の値段。
幼稚園バスの時間に合わせて90分。無論、レッスン料なんかはとらない。私が義兄嫁さんに教えてもらい作り方をマスターしてから、私が他のママさんたちに教える。
嬉しかったんだよね、本当言うと。私、地味ママなんで、ママ友もいなかったし、この街は旦那と義兄さんにとっては地元だけど、私には全く無縁の土地。
義兄嫁さんは静かで穏やかで気遣いの出来る人だけど、もうちょっと明るく楽しい友人が欲しかったんだ。
シリコンゴムで通すブレスレットや、ナイロン糸のネックレスなど色々とやっているうちに、参加者のママさんの一人から、「石をワイヤーで包みたい」というリクエストが。
教室ごっこを始めてちょうど半年。ここらで一発、お高めアクセ作ろうか!と盛り上がり、(いつもは材料費千円以下でやってた… 平均700円ぐらい)幼稚園バスの待機場所近くの公園で「トルコ石がいい」「ローズクオーツがいい」とかワイワイやってたのさ。
各自、どんな石がいいかをネットで調べてこようってことになって、次の日、あるママさんから「ハーキマーダイヤモンドがいい!」って意見が出たら、全員が同じ意見に。
ハーキマーは高いんだよなあ……と義兄嫁さんに聞いたら、「義兄さんの輸入品の中にもあるはずだから、1個1000円か2000円ぐらいで用意出来ますよ」とのこと。
5000円から10000円超のハーキマーダイヤモンドが格安で用意できるってことで私は超興奮。
嬉しくって、次の週のお迎え時間に「ハーキマー、用意できるよ!」と伝えると、参加者ママさんたちも大喜びで、誰かがふざけて「憧れのダイヤモンドー!」とかやっちゃった……。これが大失敗だったんだよねえ……。
数日後、私と娘は、幼稚園後に娘の習い事に出かけ、義兄嫁さんは作品を納品に。私と娘が帰宅すると、家の中の様子がオカシイ。なんか様子が違うんだよね。
居間に入ると、キャビネットやらの引き出しが全部開けられてる。
兄嫁さんは、そういうだらし無いことを絶対にしない人だから、これは泥棒だ!と私は急いで110番し、義兄嫁さんの携帯電話にも急いで連絡。
8分ぐらいでパトカー到着。まずは二世帯の我が家から現場検証。ほとんど被害なし。30分ぐらいで義兄嫁さん到着。義兄宅は……けっこう被害があった。
そのほとんどが石関係。義兄コレクションの1kgから3kgクラスの水晶原石が何点か、そして、義兄嫁が私たちのために用意してくれたハーキマーダイヤモンドの入った宝石トレイも。
ただ不思議なことに、水晶よりも高価な翡翠やアクアマリンには全く手が付けられてない。被害総額は120万円程(義兄の水晶原石コレクションは1個15万円から50万円だった)。
警察も「水晶専門の泥棒なんて聞いたことがない」と言いながらも、「顔見知りの犯行の可能性が高いですから、今後も何かあったらすぐに伝えてください」と言われた。
事件から3日後。園バス待ちの最中、ママさんたちと話していたら、急に私の頭に衝撃が!痛さより驚きで振り返ると、たまに公園で見かけたことがある倖◯來未っぽいヤンママが憤然と立っている。
「嘘つき!」「ダイヤじゃなかったじゃない!」「見栄張ってるんじゃないよ!」
と叫びながら、なんか硬いモノが入ったエコバッグで、私をボカスカ殴ってくる。
すぐ傍らにはベビーカー。生後半年ぐらいの赤ん坊が泣いてるのに、私への攻撃の手を緩めない。私が8発ぐらい貰ってる間に、ママさんたちは子供たちをまず避難させ、ヤンママを取り押さえてくれた。
私は痛む頭を抑えながら、こいつが泥棒かと携帯電話で管轄署に通報。
私の被害はタンコブが5箇所。エコバッグの中には、ステンレス水筒が入ってた。このヤンママが、やっぱり泥棒。警察の取り調べで自供したところによると、
「ダイヤモンド、ダイヤモンドと騒いでいたから、ついつい魔が差した。」
「犯行当日、娘を連れてベビーカーで散歩してたら、偶然に家を発見した。人がいなくなるまで待って侵入。」
「宝石トレイにダイヤ発見。まだあるはずだと探したら、凄いダイヤ原石がいくつかあったので盗んだ。」
「ベビーカーに乗せて原石を運んだ。その重さでベビーカーが壊れた。弁償させたい。」
「盗んだ翌日、質屋に持ち込んだら、これはダイヤじゃないと言われた。騙された。嘘つき!」
「ダイヤじゃないから、私は泥棒じゃない。私は騙された被害者だ!ベビーカーを弁償させろ!」
「水晶なんていらないから、橋から川に投げ捨てた。手元にはないから泥棒じゃない」
ハーキマーダイヤモンドは名前に「ダイヤモンド」とはついていますが、「ダイヤのように美しい単結晶の水晶」って愛称なんです。
近くの橋に警察が行って川さらいをしたら、ハーキマーは半分ぐらい見つかり、水晶原石は、その殆どが落とした衝撃で割れてしまって、価値は二束三文に……。
逮捕翌日、泥棒ママの家族から謝罪と被害届取り下げのお願い。
「(泥棒ママにも)子育てという大事な仕事がある。同じ母親ならここは穏便に……。」
「あんたたちがダイヤなんて言うから、(盗みを)そそのかされたようなものだ。あんたたちも反省しろ!」
「(泥棒ママには)精神科の通院歴があるから無罪だ。だから、今のうちに取り下げろ!」
……もうなにがなんだかわかりません状態。二回目の突撃では泥棒ママの旦那なる大男が現れ、「俺達家族を引き離すことは出来ないぞ」と玄関前で吠え出す始末。
泥棒旦那が大声で吠えている最中に、我が家の義兄さんご帰宅。
4週間の出張を3週間で急遽帰国してきた義兄さんは、玄関前で吠える大男を睨む。
義兄さんが「うちに何の用だ!」と怒鳴りつけると、泥棒旦那が隠し持ってた凶器(短く切った鉄パイプ)を手に襲いかかってきた!……のを、一本背負いで玄関のコンクリにドッシーン!動かなくなる泥棒旦那。
義兄さん、今でこそ見た目はいつも笑顔でニコニコだけど、柔道漬けの青春時代。中学・高校・大学と大会出場して、優勝歴も何度かある猛者。
二階の窓から覗き見てた私と義兄嫁も愕然。(義兄さんが殺人を犯したか、と)警察に通報しパトカー到着。さらに救急車到着と、その後1時間近く大騒ぎでした。